中小企業が人材不足を解決する対策

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日本の社会環境の大きな問題点として叫ばれているのが少子高齢化による、生産年齢人口の減少である。政府の掲げる働き方改革の推進も、生産年齢人口の減少による人材不足が大きな要因だ。人材不足の問題は、中小企業にとってより深刻だ。そこで今回は中小企業が抱える人材不足の要因と解決に向けての7つの対策を解説する。

日本企業の人材不足の現状

中小企業庁による「第 155 回中小企業景況調査」によると、従業員数過不足DI(「過剰」-「不足」、今期の水準)は2010年から継続して低下している。従業員の不足は一部の特定業種ではなく全業界で不足しているのだ。

人材不足が進む業界の中で、特に従業員数過不足DIが下降しているのが「建設業」だ。次いでサービス業の人材不足が進んでおり、全産業の数値を下回っている。

人材不足は中小企業経営の大きな課題となっている

人材不足は企業の景況感にも影響している。日本政策金融公庫「2019年の中小企業の景況見通し」によると、企業が2019年に向けての不安要素として「人材の不足・育成難」が最も高く、前年最も不安要素として順位が高かった「国内の消費低迷、販売不振」を上回った。中小企業の人材不足は、経営上の不安要素として大きな影を落としていることが分かる。

日本政策金融公庫「全国 中小企業動向調査結果」では、中小企業の抱える経営課題のデータをまとめているが、ここでも「求人難」を問題点とする企業が年々増加している。求人難を問題点として課題に掲げる企業の割合は、1980年から1990年にかけてのバブル成長期に迫る水準だ。

大企業と比べて人材不足がより深刻な中小企業

中小企業庁「2018年版中小企業白書」のデータでは、規模が小さいほど人材が足りていない結果が見て取れる。さらに規模が小さい企業ほど求人を増加させているが、就職希望者数はそれを大きく下回る。雇用に至った人数を見ても、従業員数が500人以上の企業は増加しているが、29人以下の企業は雇用者数が減少している。人材不足の中で、人材は年々規模の大きな企業に流れているのである。

どのような人材が不足しているのか

一言で人材といっても、企業においては多くの人材の区分が存在する。区分を大きく2つに分けると、高い専門性のあるスキルを持ち部門において中心的な役割を持つ「中核人材」と、中核人材の指示を受けて労働をこなしていく「労働人材」になる。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社の行った「人手不足対応に向けた生産性向上の取組に関する調査」によると、中小企業では、中核人材よりも労働人材が不足していることが分かる。

人材不足が深刻な業種

帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査」によると、正社員が不足している業種は、上位から「情報サービス」「旅館・ホテル」「メンテナンス・警備・検査」「建設」「農・林・水産」「運輸・倉庫」「飲食店」の順になった。

非正規社員では、小売りやサービスの人材不足が深刻で「飲食店」「飲食料品小売」「娯楽サービス」「旅館・ホテル」「人材派遣・紹介」の順となっている。

日本の社会環境を考慮すると、今後必要性が高まっていく社会保障関係の業種である「看護」「介護」「保育」などの人材不足も大きな問題だ。

中小企業が人材不足に陥る要因

日本企業が人材不足に陥っている要因は、大きく分けて2つある。1つ目は「社会環境」であり、2つ目は「個々の企業が抱える問題点」である。

日本企業の置かれた社会環境

日本企業が人材不足に悩まされる要因のひとつが社会環境である。日本経済にとって決して悪いことではないのが、景気拡大による人材需要の拡大だ。しかし、景気拡大に加えて、人材不足の大きな要因となっているのが、少子高齢化による生産年齢人口の減少である。生産年齢人口とは15歳から64歳までの人口であり、今後急激に減少することが推測される。

個々の企業が抱える問題点

中小企業にとって、人材不足は深刻だ。最悪「人手不足倒産」にもなりかねない。従業員が退職してしまう、あるいは採用ができない理由は、社会環境だけではなく、個々の企業が抱える問題点も大きな要因となる。

従業員が、企業を退職して他社に転職してしまう原因には、勤めていた個々の企業に対する不満が大きな割合を占めるケースが多い。具体的には、「業務プロセス」「労働環境・労働時間」「報酬額」「職場での人間関係」「人材育成」などに対する不満が上位を占める。人材が流失してしまう企業は、求職者にとっても魅力がないであろう。

人材不足解決に向けての7つの対策

中小企業の人材不足に対する対応は大きく分けると、人材を確保するか、生産性を向上させるか、2つの方法を採っているケースが多い。

人材の確保の対策としては、自社を働きやすい環境にする施策や、多様な人材を活用する施策が取られている。生産性の向上には、近年急速に進歩している、ITの活用や、従業員個々の能力開発を視野に入れた取り組みがなされている。

中小企業で実施されている人材不足解決に向けての具体的な施策は以下の7つになるだろう。

1. 自社の労働条件を改善する

自社の労働条件を改善する取り組みは、中小企業が人材不足の中で、人材を確保するために最も多く行われている施策である。

具体的には、賃金や処遇などを改善してより働きやすく、従業員にとって魅力のある職場へと改善する。労働条件を改善することで、既存の従業員の退職率を低下させ、求職者からの応募が増加することを目指す。

2. 職場環境を改善する

従業員を定着させ、採用を増やすために、労働条件だけではなく、職場環境を改善する施策も取られている。

具体的には、従業員の処遇や配置を左右する人事評価制度の見直し、従業員のキャリアアップのための教育研修、業務・職場・人間関係の管理、福利厚生・安全管理・健康精神衛生などの取り組みが行われている。

3. 従業員を育成し、兼任化を進める

人材不足の中で、現状の従業員のリソースで業務を遂行するために取られる施策がスキルアップや兼任化だ。具体的には、「業務マニュアルの作成・整備」「業務の棚卸し」「従業員のスキルのリスト化」などを実施し、現状把握から従業員の能力向上を目指す。

施策の効果は、一部の従業員への業務集中の改善や繁忙期・繁忙部署の業務処理能力向上などに現れている。

4. 女性・シニアなどの多様な人材を活用する

日本の人材不足の大きな要因である、生産年齢人口の減少をターゲットにした解決策として、企業が実施している施策が、女性・シニアなどの多様な人材の活用である。現在多くの企業が多様な人材を活用しており、政府の働き方改革もそれを後押ししている。

生産年齢人口とは、15歳から64歳までの人口である。今までは労働力として企業が採用していなかったり、業務を限定したりしていた女性やシニア層の活用によって、労働力人口を増加させることは可能である。

総務省のデータ上でも、生産年齢人口の減少に比べ、女性やシニア層の労働参加によって、労働力人口の減少が抑えられていることが分かっている。

具体的には、今まで男性や若手の仕事と決めていた業務を女性・シニアに担当する、フルタイムの正社員が担当していた業務を複数のパート社員に細分化するなどの対応が実施されている。

5. 自社の業務プロセスを見直して改善する

自社の業務プロセスの見直しは、全社単位、部門単位、従業員単位など企業それぞれによって対象は異なるが、割合的には、「生産・物流」「営業・販売・顧客サービス」「内部管理」部門など、部門単位で実施されることが多い。

自社の業務プロセス見直しの進め方は、経営者がリーダーシップを取って実行している企業が最も多い。特別に推進担当を配置するケースもある。

具体的には、業務の標準化・マニュアル化、不要業務・重複業務の見直し、業務の簡素化、業務の見える化などを行う。

業務プロセスの見直しは、生産性の向上につながり、企業の収益を高める。業務プロセスの施策を実行した企業は、施策を行わなかった企業に比べて、収益力が向上し、多様な人材の活用も進む。

6. 外部アウトソーシング業者を活用する

企業によっては、受注の増加や繁忙期・閑散期の業務量の変化などに対応した人材を確保するために、外部アウトソーシングを活用している。アウトソーシングを活用している業務は、生産、建設、物流、情報処理などがあげられる。

7. IT化によって省力化を図る

IT化によって、財務・会計業務や、人事労務などを省力化している企業も多い。現状では、電子メールやワードやエクセルなどのオフィスシステムをIT導入と認識している企業の割合が高い。IT化は給与や経理関連業務に多く採用されているが、IT化の効果が期待できる受発注や顧客管理業務などへの導入の余地は多くある。

IT化を進めた企業では、人材不足が深刻化する中でも、業績を伸ばしている企業が多く存在する。

IT化を成功させるためには、経営者がリーダーシップを取って、導入の目的や目標を明確化すること、IT化専任部署を設けたり専任の担当者を配置したりすることが望ましい。導入したITツールとしては、業務パッケージソフトや開発したシステム、クラウドサービスなどがあげられる。